アカデミア徒然ノート 生命と知能

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とかくAIとか騒がれているご時世だが、私たち人間の知能がどのように進化し確立されてきたのか、非常に興味深いものがある。知能とは何かを理解する上で、先ずはアメーバやゾウリムシといった原生生物の認知システムと私たち人間のそれと比べてみることは非常に有意義なことかもしれない。

はじめに (何に興味をひかれたのか)

そもそも我々の意識や知能とは何なんだろう?その探求の歴史を自分のイメージでざっくりと言うと、『古くは哲学者たちの研究対象から精神医学の対象と変わり、近年生物学の分野として神経のモデル化、いわゆる”ニューラルネットワーク”の発見により工学の研究対象となってきた』と言ったところだろうか?AIを生み出した情報処理業界なるものに身を置く自分にとって、あらためて知の起源を考察しておくのも悪くは無い。

私たちの知能には、大きくは二つのカテゴリーが有ると思う。まずは一つ目は、生存のための外界の認知し行動を決定するという基本的な知能カテゴリーだ。これは他の動物と共通のものと言えよう。二つ目は人間にしか見られない数学や芸術を創造するといった高度な知能カテゴリーが有るように思える。先ずは前者の基本的な知能が、人間と原生動物とで何が異なり何が共通なのかを探ってみようと思う。

尚、以下で紹介・考察する内容は生物学が主体となっているが、正直なところ自分には縁遠い分野であったため、理解や用語に正確でないものがあると思う。無知の妄言・妄想が含まれていることを予め承知願いたい。

原生生物の知能システム

以前、面白いビデオ*1を見たことが有る。何か大きな単細胞の微生物が、それと比べてかなり小さな微生物を追いかけていく様子を映したものだ。小さい方は必死でジグザグと逃げており、大きい方も何とか獲物を捕らえようと一生懸命追いかけていた。何だか彼らの叫び声が聞こえてきそうな、そんな臨場感あふれる映像であった。その動きに関して言うと、彼らを逃げ惑うネズミとそれを追いかける猫に入れ替えても何の違和感もない。しかし両者には大きな差がある。ネズミと猫には目と脳とそれらをつなぐ神経が有る。かたや微生物には目や脳、神経すら無い。

*1 2022年07月 東京都立大学オープンユニバーシティ『動物から見た知性の進化』渡辺茂先生において

この小さい奴らは何者だろうか?ということで以下J-STAGEの文献(Toshinobu SUZAKI, 神戸大学理学研究科生物学専攻*2)などを参照してみてほしい。

*2 原生生物の細胞間相互作用 ~原生生物は餌生物をどのように認識して捕食するのか~
PDF: https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika/39/2/39_92/_pdf/-char/ja

論文中には原生生物の採餌行動で色々なたんぱく質やペプチドなどがどのように働くかを書かれている。もちろん単細胞生物なので神経や脳は無い!要は全て餌の生物の認知、摂取のための動作を細胞を構成する『有機物(分子)』が機械仕掛の様に連携して行っているのだ。前述の逃げ惑う微生物や追いかける微生物に私たちと同様の意識があり、まるで死の恐怖や獲物を追いかける興奮などの『心』を持っているのではないかと感じるのは、私だけだろうか?

高等生物の知能システム

原生生物はコロニーを作る場合があるが、生存におけるコロニーの優位性から多細胞生物に進化し、現在の高等生物至ったものと理解している。その過程でコロニーを構成する細胞の専門化(分化?)が進み、それぞれの細胞どうしを連携して生きる個体が発生したのだろう。個体内では細胞内に閉じていたいた情報を伝達する化学物質が、細胞間の連携でも使われただろうと容易に想像できる。そしてついには情報伝達を担うの専門組織として神経ネットワークが発生してのだろう。以下原始的な神経ネットワークを持つ生物(クラゲとプラナリア)の記事が面白。

脳がないのに記憶・学習の能力? ハコクラゲの研究、生物の進化解明の手掛かりに期待
https://globe.asahi.com/article/15030946
プラナリアの脳は何を語るのか 阿形清和
https://www.brh.co.jp/publication/journal/024/ex_2

ちなみに我々の体には知覚を伝える神経ネットワークに加え、臓器どうしでホルモンなど化学物質を使って連絡を取り合う臓器間ネットワーク*3(臓器間コミュニケーション)の存在も明らかになって来ている。この臓器間ネットワークは原生生物の時代から引き継がれてきた化学的伝達物質によるネットワークだと思う。

*3 臓器間ネットワークと腸内細菌に関する最近の話題
PDF: https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/157/5/157_22038/_pdf/-char/ja

よく、『頭では理解しているが、感情がじゃまをして・・・』などと言う会話は、時として私たちの心が単細胞生物由来の化学的伝達物質による情報ネットワークと神経細胞由来(つまり脳みそ!?)のネットワークによる2重構造から来るのではと思うのだが、どうだろうか?

制御システムの比較

以上を*1のビデオに出てきた様な採餌/逃避行動に限って比較してみる。

原生生物(ビデオの小さいやつら)高等生物(ネズミと猫)
センサー主に舌の様なもの?(化学物質、アミノ酸の種類や餌の細胞壁のたんぱく質構成を検知する?)
他の4感覚も一部利用している可能性も有りそうに思えるが・・・
五感(味覚、臭覚、触覚、聴覚、視覚)
情報伝達化学的伝達神経
判断化学的機構脳(神経ネットワーク)
行動繊毛運動や変形筋肉

こうして考えてみると、目の存在は大きいと思う。個体の体が大きくなり行動範囲が広がると、視覚は生存競争において実に重要な機能と言えよう。その扱う情報量の大きさから、神経ネットワークの強化が必然と進み、視覚画像を処理するのために脳を進化させたのでは推察される。振り返ってみると、AIの原点は視覚の模倣であった。郵便番号の文字認識は実用化の第一歩と記憶している。この技術はパーセプトロンに始まりコグニトロン、ネオコグニトロン*4と進化した。

*4 福島邦彦  人間の脳のメカニズムを、 わたしは知りたくてたまらない。

いわゆるディープラーニングと呼ばれるこの技術を基にして、今はやりのChatGPTなどの生成AIが生まれたと言って良いだろう。同じ様な進化が生物でも起こったはずだ。二次元の形状のパターン認識から、さらに3次元空間での物体の形状や、時間とともに変化するパターンを学習できるように生物の脳も進化したと想像できる。思いっきり単純化して言うと『丸いやつは動かない獲物なのでここで食べてやろう』とか『四角い形のやつは速く移動してくる捕食者だから全力で逃げなけれいけない』とかを判断出来るようになったのだろう。『3次元空間での物体の時間変化のパターンを認識する』は『物理を認知する』と言い換えられる。私はこれを『(外界)物理のモデル化』と呼んでいる。つまりネズミと猫は、それぞれの脳でモデル化された(外界)物理情報を駆使して互いの生存を賭けた戦を行っているのだ。

それではあの小さい奴ら、原生生物の方はどうだろうか?ネズミと猫の戦いと同じことを行っていたわけだが、神経や脳に対応する部分は、表で示された通りで、化学物質による信号伝達以外に考えられない。多細胞生物における神経細胞はカルシウムイオンの出し入れで電位差を作り信号伝達しているが、進化前の単細胞時代にその原型が有ったはずだ。だから単細胞生物にも似たような信号の発信・受容機構が想定でき、その組み合わせによりセンサーの信号に応じて逃げたり追いかけたりを判断していることになる。高等生物の神経ネットワークによる知能を”神経ネットワーク知能”と呼ぶとすると、もし原生生物に知能が有るとすると、さしずめ”伝達物質ネットワーク知能”だ。そしてこの伝達物質ネットワーク知能(実態は細胞内の複雑な有機物の構造体)もやはり外部の物理をモデル化していると言えるのだろうか?

以下のリンクで原生生物の観察方法を紹介している。

*5 原生生物の採集と観察:2 原生生物の観察法 (hosei.ac.jp)

文中に『アメーバの仲間である Vampyrella (糸状根足虫類)は, アオミドロ などの糸状接合藻類を専門に食べるが,その際は,アオミドロの細胞壁に丸い穴を開けて内部の細胞質をいっきに飲み込んでしまう。その様子をビデオ撮影し公開しているのでご覧いただければ幸いである』とあり、以下の動画がリンクされている。

http://ameba.i.hosei.ac.jp/BIDP/amoeba/QuickEate/

アメーバは草の茎にくっついた虫よろしく、餌の対象であるアオミドロを認知し、穴を開けて中味を食べている。これを見て思うのだが、昆虫には知能が有ってアメーバに無いとするのは、いささかアメーバ君に申し訳ない様な気がす。なので私は、アメーバにも伝達物質ネットワーク知能という原始的な知能があるとしよう。

知能に注目して原生生物の生態をまとめると、以下の様に言える

  • 伝達物質ネットワーク知能により補食者を認知し、蓄えたエネルギーを使い逃避する
  • 伝達物質ネットワーク知能により餌生物を認知し蓄えたエネルギーを使い、捕食してエネルギーを奪い蓄える
  • 生殖して伝達物質ネットワーク知能を含む個体構成情報を次世代に引き継ぐ

おわりに

原生生物は生存競争を勝ち抜く上で絶えず伝達物質ネットワーク知能を強化していたと思うと、生物の進化と知能は一体化している様に感じた。いったい生物の進化は何によってドライブされているのだろうか?鍵となる無生物から生物に進化する過程が興味深い。つぎは最新の研究がどうなっているか徒然探ってみよう。以上で今回の妄言はおしまい。

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