一般相対性理論4 [ブラックホール編]

物理学ノート

本稿は一般相対性理論3 [重力方程式編]から続いてノートとなる。重力方程式を解き、シュバルツシルト解を得てブラックホールがどのように記述されるかを理解する。引き続き数式処理 (CAS) を使ってブラックホールの構造等を視覚化を行い、数式の示すものを実感できるように心がける。

4.1 シュバルツシルト解

質量mの静的でかつ球対称な天体を想定し、その天体の周りがどのような時空となるか4次元擬リーマン時空で線素を頼りに考察する。線素が存在するとする時空において[x0]は時間軸で[x1,x2,x3]は3次元の空間軸とする。ただ空間はデカルト座標より極座標を使う方が都合がよい。そこで解析する上では、空間は以下の様に原点にその重力発生元の恒星を置いた極座標[r,θ,φ]で表し、

さらに時間軸[x0]を加えて4次元時空X:[x0, r,θ,φ]としよう。

この系Xは恒星の重力が無視できる程度、十分離れた時空周りはミンコフスキー時空として扱える。しかし原点周辺の計量には天体の質量で歪んだ偽リーマン空間が表現されているはずだ。

静的であるという条件により時間対称、つまり時間の符号を入れ替えても同じ計量とな必要があり、g00を除く第1行、および第1列はすべて0である必要がある。残りの空間軸に対しても球対称であるため同様のことが言え、結局対角成分以外はすべて”0”となる。

\[\small g_{ij}=\left(\begin{array}{c} g_{00}(r) & 0 & 0 & 0\\ 0 & -g_{11}(r) & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -r^2 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -r^2 \sin(\theta)^2 \end{array}\right) \]

計量は原点からの距離の未知関数となり、時間軸はg00(r)、空間軸はg11(r)が他の空間次元を代表する。

この計量を使って恒星の外側(つまり物質が存在しない領域:Tij=0)の空間を想定して以下 (Eq3.3-7) を解く。

\[\small G^{ij}=R^{ij}-\frac{ 1}{ 2}g^{ij}R=0 \]

手で計算するのは手間なので計算機の数式処理にたよろう。以下 G00、G11、G22、G33はGijの対角成分であり、他は0となっている。詳細は ”[CAS-Lab] ブラックホールをあなたの手の上に 一般相対性理論4” で述べる。興味のある方はぜひ参照されたい。Mathematica版Maxima版があるが以下4.1節内はMaxima版からの参照だ。

比較的に単純な数式となっている第1式、第2式に注目しよう。この2つの式だけでg00(r)、g11(r)について解けそうだ。

まず第1行目をG00=0と置いてg11(r)に関して微分方程式を解く。数式処理(Maxima)曰く以下の通りだそうだ。

これは真値の解にすると以下の様に未定定数 a を含む式となり

g11を得る。

次に第1式と第2式を、G00(r)=G11(r) と結んで g00(r) に関して解くと

未定定数 a、b を含む式g00を得る。

以上、数式処理により少々計算を手抜きしたが、以下の様に計量の未知の関数を埋めることができた。

\[\small g_{ij}=\left(\begin{array}{c} b-\large \frac{b}{a r}& 0 & 0 & 0\\ 0 & -\frac{\large a r}{\large a r-1} & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -r^2 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -r^2 \sin(\theta)^2 \end{array}\right) \]

ニュートンの重力理論近似

後は未定定数 a、b をニュートンの重力理論 “落下距離=gt2/2” との対比で求めればよい。

x1に沿って地上から高さhの点より自由落下するエレベータを考える。

地上の観測系をx:[x0,x1,x2,x3] 、エレベータ内の落下系をX:[X0,X1,X2,X3]とする。

x → X系の局所的な変換となるが以下の通り。

\[\small \begin{cases} X^0=x^0\\\small X^1=x^1+\large \frac{g (x^0)^2}{2 c^2}\small-h\\\small X^2=x^2\\\small X^3=x^3 \end{cases} \]

x0=ctであるためt=x0/cとなる。gは重力加速度。この局所的な計量を計算すると

\[\small \left(\begin{array}{c} 1-\frac{\large g^2 (x^0)^2}{\large c^4} &-\frac{\large g x^0}{\large c^2}& 0 & 0\\ -\frac{\large g x^0}{\large c^2} & -1& 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -1 \end{array}\right) \]

重力ポテンシャルφ=g(x1-h)、鉛直方向の空間軸x1と時間軸x0関係

\[\small x^1=h- \frac{1}{2}\small g\left(\frac{x^0}{c}\right)^2 \]

を使って

\[\small \phi=-\frac{g^2 (x^0)^2}{2 c^2}\\\small \downarrow\\\small (x^0)^2=-\frac{2 \phi {{c}^{2}}}{{{g}^{2}}}\\\small \downarrow\\\small =1-\frac{2 G M}{{{c}^{2}} r} \]

g00を対比してみる。

\[\small 1-\frac{2 G M}{c^2 r} \space :\space b-\frac{b}{a r} \]

ここでb=1 と置いて、

\[\small a=\frac{c^2}{2 G M} \]

とすると両辺は整合する。この a、bで計量を書き換えると

\[\small g_{ij}=\left(\begin{array}{c} 1-\frac{2 G M}{\large c^2 r} & 0 & 0 & 0\\ 0 & -\frac{\large 1}{\large 1- \frac{2 G M}{\large c^2 r}} & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -r^2 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -r^2 \sin(\theta)^2 \end{array}\right) \]

これにより以下の線素を得る。

\[\small ds^2=\left(1-\frac{2 G M}{\large c^2 r}\right)d(ct)^2 +\left(1-\frac{2 G M}{\large c^2 r}\right)^{-1}dr^2\\\small +r^2 d\theta^2+r^2 sin^2(\theta)\quad\quad\quad\quad\quad\quad \]

シュバルツシルト解の形状

第1項には時間に係る線素が0となるr上の点が存在する。これを無限の赤方偏移(redshift)と言う。

太陽の質量相当のM=2.0×1033[g] 、万有引力定数G=6.7×10-14[m3/gS2] 、光速c=3.0×108[m/S]としてg00が0になるrを求めると以下の半径rが求まる。

r=2,977 [m]

さらに第2項に空間に係る線素が発散する点である。これを事象の地平面と言う。同様に求めてみよう。g11(つまりのg11の逆数)が0になるrを求めれば良いので、

r=2,977 [m]

となる。

この様に無限の赤方偏移と事象の地平面は両方同じ動径 r の位置に存在り、この r をシュバルツシルトの半径という。この点というか面では、線素の式からわかる通り、時間軸ctに掛かる係数が0となり、内側からの光が外に向かったとしても振動数がゼロ、つまりエネルギーが尽きてしまい、表に出てこれなくなる。これがブラックホールの所以だ。これ等の面をプロットすると

無限の赤方偏移面と事象の地平面を縦に半分に切った図となる。中心が分かる様に小さな点を表示している。

太陽クラスの恒星の場合は無限の赤方偏移と事象の地平面は生じない。何らかの方法で恒星が3kmより圧縮されると無限の赤方偏移と事象の地平面が表に現れることになる。

カー解の形状

この球対称の天体が回転している場合、無限の赤方偏移と事象の地平面は異なってくる。その計量はカー解よばれ軸対称で定常的に回転するブラックホールの解としてロイ・カー(Roy Kerr)によって発見された。
無限の赤方偏移と事象の地平面はが異なる場合の例として、それらをプロットしてみよう。

計量は以下の通り非対角成分を含む形をしている。(この計量を求めるのは入門の範囲を超えるので参照するのみとしよう)

\[\small \begin{pmatrix}g_{00}\left( r\operatorname{,}\theta\right) & 0 & 0 & g_{03}\left( r\operatorname{,}\theta\right) \\ 0 & \operatorname{g_{11}}\left( r\operatorname{,}\theta\right) & 0 & 0\\ 0 & 0 &g_{22}\left( r\operatorname{,}\theta\right) & 0\\ \operatorname{g_{03}}\left( r\operatorname{,}\theta\right) & 0 & 0 & \operatorname{g_{33}}\left( r\operatorname{,}-\theta\right) \end{pmatrix}\]

各成分の詳細は

\[\small \operatorname{g_{00}}\left( r\operatorname{,}\theta\right) =\frac{{{r}^{2}}-2 m r+{{a}^{2}}}{{{a}^{2}} {{\cos{(\theta)}}^{2}}+{{r}^{2}}}-\frac{{{a}^{2}} {{\sin{(\theta)}}^{2}}}{{{a}^{2}} {{\cos{(\theta)}}^{2}}+{{r}^{2}}}\quad\quad\quad\quad\quad\quad\space\space\space\\\small \operatorname{g_{03}}\left( r\operatorname{,}\theta\right) =\frac{a\, \left( {{r}^{2}}+{{a}^{2}}\right) {{\sin{(\theta)}}^{2}}}{{{a}^{2}} {{\cos{(\theta)}}^{2}}+{{r}^{2}}}+\frac{a\, \left( -{{r}^{2}}+2 m r-{{a}^{2}}\right) {{\sin{(\theta)}}^{2}}}{{{a}^{2}} {{\cos{(\theta)}}^{2}}+{{r}^{2}}}\space\\\small \operatorname{g_{11}}\left( r\operatorname{,}\theta\right) =\frac{-{{a}^{2}} {{\cos{(\theta)}}^{2}}-{{r}^{2}}}{{{r}^{2}}-2 m r+{{a}^{2}}}\quad \quad \quad\quad\quad\quad \quad\quad\quad\quad\quad\quad\space\space\space\\\small \operatorname{g_{22}}\left( r\operatorname{,}\theta\right) =-{{a}^{2}} {{\cos{(\theta)}}^{2}}-{{r}^{2}}\quad \quad \quad\quad\quad\quad \quad\quad\quad\quad\quad\quad\quad\space\\\small \operatorname{g_{33}}\left( r\operatorname{,}\theta\right) =\frac{{{a}^{2}} \left( {{r}^{2}}-2 m r+{{a}^{2}}\right) {{\sin{(\theta)}}^{4}}}{{{a}^{2}} {{\cos{(\theta)}}^{2}}+{{r}^{2}}}-\frac{{{\left( {{r}^{2}}+{{a}^{2}}\right) }^{2}} {{\sin{(\theta)}}^{2}}}{{{a}^{2}} {{\cos{(\theta)}}^{2}}+{{r}^{2}}} \]

シュバルツシルト解と同様の手順で無限の赤方偏移

\[\small \begin{cases} r=m-\sqrt{{{a}^{2}} {{\sin{(\theta)}}^{2}}+{{m}^{2}}-{{a}^{2}}}\\\small r=\sqrt{{{a}^{2}} {{\sin{(\theta)}}^{2}}+{{m}^{2}}-{{a}^{2}}}+m \end{cases} \]

事象の地平面を求める。

\[\small \begin{cases} r=m-\sqrt{{{m}^{2}}-{{a}^{2}}}\\\small r=\sqrt{{{m}^{2}}-{{a}^{2}}}+m \end{cases} \]

両者二つの解を持っており、aは回転速度に関するパラメータである。a=0.99,m=1と置いて、これをプロットすると、

と入り組んだ複雑な構造をしている。

事象の地平面だけ抜き出すと

無限の赤方偏移面の方も2重になっている。

尚、aを0とすると回転が止まっている状態であり、m=M*G/c2,M=2.0E33と置くと太陽の場合のシュバルツシルト解と一致する。

4.2 質点運動の解析

さてブラックホールが作る時空の計量 g が手に入ったので、その応用としてブラックホールの近傍を移動する質点の挙動を考察してみよう。

以下、今までに明らかになった重要な方程式と、その関連図を整理した。シュバルツシルト計量からは接続(クリストッフェル)が求まる。さらに、この接続を使って一般相対性理論1で考案した『速度ベクトルの平行移動アルゴリズム』により質点の軌跡を数値解析的に算出・描画することが出来る。

ただし、リーマン幾何学では以下の様に3次元空間での速度ベクトルの平行移動であった。

しかし今回は時間軸を加えた4元速度ベクトルを平行移動させることになる。

4次元での描画はできないので、空間を表す球座標で緯度:θを赤道面に固定し、r-φ平面での考察とする。つまりz(時間)+{r-φ}(空間)の3次元での速度ベクトル移動となる。尚、r-φ平面は適時x-y平面に対応させる。

さらに単純化のため当面以下のとおり物理定数を全て1にする。

\[\small g_{11}= 1-\frac{\scriptsize 2 G M}{ c^2 r}, \quad g_{22}= -\frac{ 1}{ 1- \frac{2 G M}{ c^2 r}},\quad g_{33}= -r^2 \\\small \quad \downarrow\\\small g_{11}= 2-\frac{\scriptsize 1}{ r}, \quad g_{22}=\frac{ r}{ 2 – r},\quad g_{33}= -r^2 \\\small \]

この設定の場合、シュバルツシルト半径は2となる。

しかし、この計量をあらためて見ると頼りなさそうな数式が並んでおり、何が引力に対応するか示されていない。はたしてこんなもので覆った4次元時空(θは固定)に質点を置いただけで、この計量が作る曲率(アインシュタインテンソル)により、質点にちゃんと重力が働くのか、はなはだ不安だ。しかるに今までの理論的な検討では質点はブラックホールに向かって引き寄せられるはずだ。

尚、4元速度ベクトルは空間的に静止していると、時間成分(z軸方向)に”1”、空間成分(r-φあるいはx、y軸)は”0”となり、z方向に向かって直立[↑]している。しかし空間速度がある場合は斜めに傾く[↗]ことになる。


実験準備

シュバルツシルト計量を確認しよう。シュバルツシルト半径は2だ。

\[\small \tt \tag{Eq4.2-1} \]
\[\small g=\left( \begin{array}{ccc} 1-\frac{2}{r} & 0 & 0 \\ 0 & \frac{r}{2-r} & 0 \\ 0 & 0 & -r^2 \\ \end{array} \right) \]

クリストッフェル記号を確認すると、以下の通り。この成分がベクトルの微小移動に対して疑似的な加速度を与え進行方向を変えることになる。

\[\small \tt \tag{Eq4.2-2} \]
\[\small \Gamma=\left( \begin{array}{ccc} \left\{0,\frac{1}{(r-2) r},0\right\} & \left\{\frac{1}{(r-2) r},0,0\right\} & \{0,0,0\} \\ \left\{\frac{r-2}{r^3},0,0\right\} & \left\{0,\frac{1}{2 r-r^2},0\right\} & \{0,0,2-r\} \\ \{0,0,0\} & \left\{0,0,\frac{1}{r}\right\} & \left\{0,\frac{1}{r},0\right\} \\ \end{array} \right) \]

等方座標なのでφの成分は現れず、全てrに依存している。

質点の慣性運動は測地線となり、質点の位置ベクトルをuとすると微小移動量Δuは以下の式の繰り返しで数値解析的に軌道を計算できる。

\[\small \tt \tag{Eq4.2-3} \]
\[\small \begin{cases} \alpha^i(n)=\Gamma^i_{\space jk}[u(n)]\Delta u^j (n)V^k(n)\\ \\\small V^i(n+1)=V^i(n)+\alpha^i(n)\\ \small \Delta u^i(n+1)=V^i(n) \space \Delta s, \\ \\ \small u^i(n+1)=u^i(n)+\Delta u^i(n) \end{cases} \]

3次元リーマン空間の場合ΔsはΔtであった。tは4元速度の成分となってしまったのでtに代わるパラメータとしてsとした。

実験1 ブラックホール脇を横切り移動

以下はr-φ面(空間面)を上から見た図となる。ブラックホールの中心から右10の位置に青い点で示した質点を置く。シミュレーションでは光速度比:βで4元速度を指定し、x-y面で任意の方向にベクトルの空間成分を回転させて初期設定する形式をとる。今見えている矢印は4元速度ベクトルの空間成分となる。つまり、進路は約45度ほどブラックホール側に寄っている。質点のニュートン速度を光速度比:β=0.6と置いた。

尚、矢印はベクトルの方向を示すためであり、長さはその都度見やすさの観点から決めている。

時間成分も含めた時空の視点からもベクトルの様子を確認しよう。以下の様に時空間においては、速度ベクトルは斜め上を向いていることが分かる。

β=0.6であるので、ローレンツ変換の計算により、4元速度ベクトルの時間成分は1.25、空間成分は0.75となる。

以上の条件で数値計算を実施した結果が、以下の図となる。尚、z軸(時間)のスケールは5倍になっている。

4元速度ベクトルは時空内を駆け上りながら、ブラックホールの右わきを抜けて移動し、遠ざかっていった。この様子を真上から見ると以下の様な軌跡を描いている。

なるほど、この曲がり方は重力の影響を受けているっぽい。さしずめこの実験は、ブラックホールの重力に引き寄せられて進行方向が変わってしまった例か?

実験2 ブラックホールを一周して離脱

もう少しブラックホールよりに初期ベクトルの方向を変更してみよう。

先ほどよりブラックホールにかなり近づいてので一旦ブラックホールに捕捉されたようだが、一周して何とか、左上方向に離脱できた。ブラックホールを一周する間は、プロット点の間隔が伸びており、侵入時より高速で運動ている事がわかる。さしずめ『カーク船長、危機一髪実験』といったところか?

実験3 ブラックホールを円軌道で周回する

今回のシミュレーション(数値計算による解析)は測地線方程式を細切れにして足し合わせて利用したようなものだ。幸い実験1,2で重力場が再現できているようなので、元になった測地線方程式を解いた理論値と照合してみよう。実は次に示すとおり円軌道の場合は比較的簡単に解ける。

測地線方程式をベクトル演算の形式で書くと

\[\small \Gamma\cdot V \cdot V=0, \quad V=[t’\space r’\space \phi ‘] \]

となる。接続(クリストッフェル記号)の成分はEq4.2-1を参照のこと。

ここで、円軌道であるので r’=0 と置くことができ、角速度φ’について解くことができる。面倒くさいので数式処理での解を示す。

\[\small \left\{\phi’\to -\frac{t’}{r^{3/2}},\space\phi’\to \frac{t’}{r^{3/2}}\right\} \]

当然右回り・左回りの解があり、+の方を採用しよう。

\[\small t’=\phi’ \space r^{3/2} \]

いずれにせよ、1周期時間 t1 は上記の角速度より、以下で求まる。

\[\small t_1=\phi_1 \space r^{3/2}=2 \pi r^{3/2} \]

今回、開始位置は

r=5, φ=0 (x-y平面でx=5, y=0)

とする。その場合、1周期時間:t1=10√5) π=70.2481となる。

次に設定すべき初期4元速度ベクトルを求めてみよう。角速度は y 方向を向いているので、以下のように r を掛けてスケーリングするだけで y’ に変換できる。

\[\small y’=r\phi’=r\frac{t’}{r^{3/2}}=\frac{t’}{\sqrt{r}} \]

光速度比:β=y’/t’なので

\[\small \beta=\frac{y’}{t’}=\frac{1}{\sqrt{r}} \]

となる。このβを使って初期4元速度を計算すれば良い。r=5とした場合

β=0.447214

であり、4元速度ベクトルの成分は静止時速度ベクトル[1 0]をβでローレンツ変換した

時間成分:t’(=z’)=1.11803, 空間成分:y’=0.5

を設定すれば良いことが分かる。以下が設定された初期4元速度ベクトルの傾き具合となる。

尚、見やすくするために、ベクトルの長さは4倍して描画した。

以下軌跡の計算結果だ。1周期後の通過目標の時空点は緑色の点で表している。

軌跡は青の時空点から始まり、1周後に緑の目標時空点を正しく通過し、さらに同じ軌跡を繰り返し上って行った。

その様子を上から見ると、以下の様に正確に円軌道を描いている。『ブラックホール観測ツアー』と言ったところか。

以上の通り、目視の範囲の精度で数値解析と理論解析の結果は一致していることが確認できた。

実験4 静止質点のブラックホールへの落下

ブラックホールから少しはなれた r=10に質点を『そっと』置いてみる。つまり空間方向の速度は0だ。以下の図の様に、4元速度ベクトルは時間成分(=1)のみとなるので真上に向いた状態となる。疑問は今までの実験と違い空間方向への動きが無い状態で、ちゃんとブラックホールに引き寄せられるのかという事だ。

計算結果は以下の図の通りとなる。最初は r=10 静止していた(つまり4元速度の時間成分1、空間成分0)質点が、徐々にブラックホールに引き寄せられていく。

最後にシュバルツシルト半径に近接してくると、急激に速度ベクトルの時間成分が大きくなり、空間的には移動しなくなる。つまり質点の時間がたたなくなり動きが止まってしまう。最後はシミュレーションが無限大に近い値の計算で破綻する。張り付く手前までに要した時間は約50となる。

これはブラックホールの有名な解説で『ブラックホールに落ちていく宇宙船はシュバルツシルト半径で止まって張り付いたまま動かなくなる』という事象の実験例だ。

別途同じ設定で算出された理論計算によるグラフと重ねてみる。以下の式に示す通りブラックホールに落ち込んでいく測地線の理論的解析は結構複雑だ。ここでは参考文献より数式を拝借するのみとしよう。

\[\small \text{c1}+\frac{\sqrt{\text{r0}-2} \left(\sqrt{2-\text{r0}} r(t)^{3/2}-\sqrt{2-\text{r0}} \text{r0} \sqrt{r(t)} \right)}{\sqrt{4-2 \text{r0}} \sqrt{\text{r0}-r(t)}} \\\small +\frac{\sqrt{\text{r0}-2} \left((\text{r0}+4) \sqrt{-(\text{r0}-2) \text{r0}} \sqrt{1-\frac{r(t)}{\text{r0}}} \sin ^{-1}\left(\frac{\sqrt{r(t)}}{\sqrt{\text{r0}}}\right) \right)}{\sqrt{4-2 \text{r0}} \sqrt{\text{r0}-r(t)}} \\\small+\frac{\sqrt{\text{r0}-2} \left( 4 \sqrt{2} \sqrt{\text{r0}-r(t)} \tan ^{-1}\left(\frac{\sqrt{\text{r0}-r(t)}}{\sqrt{1-\frac{\text{r0}}{2}} \sqrt{r(t)}}\right)\right)}{\sqrt{4-2 \text{r0}} \sqrt{\text{r0}-r(t)}} \]

質点の初期設定位置:r0=10(無限大を踏まない様に-δしてあるが)とし、c1で初期座標時間:t=0 となるようにオフセットを調整しプロットする。

この理論的計算結果(青)と、先ほどの数値計算結果(赤)とを重ねて表示してみる。

ピッタリ重なっており、測地線シミュレーションは正しそうだ。

おわりに

参考書に出てくる4元ベクトルは、紙の上で計算上必要となるだけの何かと思えるかもしれない。しかしここでは、実際にブラックホールが作る計量で覆われた時空を、色々な条件設定で4元速度ベクトル(測地線ベクトル呼んだ方が良いか?)を動かして、何が起きるかを確認することが出来た。4元速度ベクトルは相対性理論の世界観を構成する重要な概念といえるが、手に取ることが出来る物理実体として感じることが出来たのではと思う。

参考文献

1 物理数学のためのMathematica ロバート・ジンマーマン/フレデリック・オルネス著 ピアソン・エデュケーション

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